公益財団法人教育支援グローバル基金|ビヨンドトゥモロー

過去と向き合う「ライフストーリーワーク」

「ライフストーリーワーク」という言葉を聞いたことはありますか。

これからの人生を前向きに生きていくために、「自分がどのように生まれ、どのような生活を送ってきたのか」といったこれまでの人生を振り返り、整理する取組の1つです。

今回は、この「ライフストーリーワーク」がどのように行われ、どのような意味や効果を持つのかについて、実際に自分の過去と向き合った経験をもつ若者の声を交えながらご紹介します。

1.ライフストーリーワークとは何か

ライフストーリーワークとは、子どもが、信頼できる大人と一緒に自分の生い立ちを振り返り、自分のこれまでを「物語」として整理・理解することで、現在の生活への納得感や将来への見通しを持つことができるように支援する心理的・社会的な実践方法です。

もともとは海外で始まった取組であり、たとえばイギリスでは、社会的養護のもとで暮らす子どもたちに対して、ライフストーリーワークを行うことが法律で義務づけられています。

日本では、まだ広く普及しているとは言えませんが、児童養護施設や里親家庭など、社会的養護の下で暮らす子どもたちを中心に、少しずつ取り入れられるようになってきました。

「過去の経験を話す」と聞くと、「つらい記憶を思い出させてしまうのではないか」「無理に振り返る必要はないのでは」と感じる方もいるかもしれません。実際、子ども本人にとってつらい出来事を思い出させてしまう可能性があることも否定できません。

しかし、自分の人生を丁寧に振り返り、言葉にしていくことは、子どもたちが自分自身を理解し、これからを前向きに生きていくための大切な土台となるのです。そのため、ライフストーリーワークの進め方には、細心の注意が求められます。

2.どのように行われるの?

ライフストーリーワークは、児童養護施設や児童相談所の職員など、子どもにとって信頼できる大人が立ち会う中で行われるのが一般的です。

やり方は一つではなく、「こうしなければならない」という正解もありません。話す、文章にする、絵や本といった作品としてまとめるなど、子どもの希望や身近な大人の判断を踏まえて、その子どもにとって最も負担の少ない方法で実施されます。

よく用いられる方法としては、日常会話の延長で過去について少しずつ掘り下げながら話していく、時間をしっかり設けて自分のこれまでを振り返った上で「自分についての本」を作る、などといった方法があります。

先にも述べたように、このような過程で、子どもたちがつらい出来事などを思い返し、不安や悲しみが強くなることがあります。だからこそ、信頼できる大人がそばで寄り添い、子ども一人ひとりのペースを尊重しながら進めていくことが大切なのです。

3.子どもたちはどう感じている?

児童養護施設で暮らすビヨンドトゥモロー奨学生のAさんは、「自分の過去を話すこと」について、こう語ってくれました。

「自分の過去を話すことにそこまで抵抗があるわけではないけど、やっぱり勇気がいるので、話す相手が児童養護施設についてなどをある程度知ってくれていると、もっと話しやすいです。
施設の先生とはよく自分の話をしますが、話し始めると、言いたいことがたくさん出てきます。」

また、ビヨンドトゥモロー卒業生のBさんは、一時保護所で初めて自分の過去を話したときのことを、次のように振り返ります。

「事実が先走って感情が置いてけぼりだった。自分の話が誰かを悪者に仕立て上げてしまうのではないかと不安になった。」

さまざまな場面で自分の過去を語る経験を重ねてきたBさんは、「自分の経験を人に話すこと」についてこう続けます。

「私自身もいろいろな場面で過去について話してきましたが、自らの経験を人に話すことは、率直にいいことだと思います。自分の内のことも整理できるし、言葉にすることできちんと振り返ることができると思うので。そういった機会があるに越したことはないと思います。
ただ、周りの反応が大事かな。複数人で一緒に話すといった場合には、周りと比べてしまうことも多いと思うので、まずは信頼できる誰かと一対一で話す機会があるといいなと思います。」

自分の生い立ちについて複雑な思いを抱える子どもにとって、抵抗なく話すことや、最初から整理した形で語ることは簡単ではありません。AさんとBさんの言葉からは、過去を振り返ることが彼らにとっても大切なことであるとともに、子どもたちの経験や気持ちを受け止めてくれる人の存在がいかに重要であるかが伝わってきます。

現在は、社会的養護の下に暮らす子どもたちを中心に行われているライフストーリーワークですが、今後社会において広く普及すれば、一人ひとり違う人生を歩んでいるすべての子どもたちが、自らのことを肯定的に受け入れられるようになるかもしれません。

4.ビヨンドトゥモローでの取り組み

ビヨンドトゥモローでは、ライフストーリーワークに通じるものとして、長年「体験共有」という活動を行っています。

これは、ビヨンドトゥモローのプログラムに参加する高校生・大学生たちが、数人ずつのグループに分かれ、これまでの経験や現在の状況、将来についての思い、悩みや考えを語り合う活動です。ライフストーリーワークとは異なり、必ずしも大人が同席するわけではありませんが、過去に体験共有を経験したことのある先輩参加者が中心となり、参加者それぞれにとって無理のない形で進められています。

※画像はイメージです。体験共有中の写真ではありません。
※画像はイメージです。体験共有中の写真ではありません。

体験共有は、ビヨンドトゥモローのプログラムの中でも、特に印象に残っていると語る奨学生が多い活動です。

 

Aさんも、この体験共有について、次のように話してくれました。

「自分の経験を言葉で伝え合うことは、プログラムの合宿中に、グループでディスカッションやプレゼンテーションを行うにあたって、相手のことを深く知ることができたのでよかった。」

自分の経験を振り返り、それを言葉にして誰かに話す機会は、日常生活の中ではなかなか得られるものではありません。また、自身の経験を身近な人に話すことに抵抗を感じる人も少なくありません。
そのような中で、ビヨンドトゥモローという安心できる場で体験共有を行えることは、奨学生たちにとって大きな安心感や支えにつながっていると思われます。

私たちビヨンドトゥモローは、「体験共有」という活動を通じて、奨学生一人ひとりが自分自身と向き合い、前を向いて歩んでいくことを支援しています。そして、より多くの子どもたちが自分の人生を肯定し、自分の道を歩み続けられることを願っています。

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